ヴァイブレータ

も、よかった。

読みながら、あ、わたしって皮膚でできてたんだ、と久々に思い出す。
ふれたい、ふれられたい、なでたい、なでられたい、という気持ち。


身体がざわめく夜、主人公の女はクラブに行く。
誰かにぶつかるため。誰かにふれるため。
「私はここにいます、どうか気づいて。」
そんな気持ちが皮膚の表面を覆う。
あるいはそんな気持ちそのものが皮膚なのかもしれない。


じゃあその皮膚のしたには何があるのか?


そこにあるのはあふれかえる言葉の混沌。
自分の言葉、人の言葉、自分の言葉の顔つきをした人の言葉、
人の言葉の姿を借りた自分の言葉。これらの言葉が
身体のなかで増殖する。それに対して女はただ耳を傾けるより何もできない。


転機は女の皮膚をやさしく包む誰かがあらわれたときに訪れる。
それをきっかけに、氾濫する言葉は清流となって流れ出す。


一方には、なりっぱなしのラジオのように次から次へと
あふれる言葉を追いかけていく手法。
もう一方にはこの小説を書かざるを得なかった切実な想い。
両方あってやっとこの小説ができた。よく書いてくれました。
作者のひと、どうもありがとう。


文庫版解説でたしか「現代版言文一致」というようなことが
書かれてたような気がするけど、これは言文一致というよりは
思文一致との印象をうけた。思考を書き言葉に流し込んだという意味で。


また近いうちに読み返したい。


赤坂真理作。