[感想]『夢十夜』(第一夜)− 漱石と鏡花


文鳥・夢十夜・永日小品 (角川文庫クラシックス)

文鳥・夢十夜・永日小品 (角川文庫クラシックス)


文庫版のページにしておよそ3ページの超短篇。
これがまた読み応えあり。


今『超短編小説集』を半分くらいまで読み進めたけど
どれひとつとして私の心には響かず、
短篇って相当難しいんだろうと思ってたところ。


超短編小説70 Sudden Fiction (文春文庫)

超短編小説70 Sudden Fiction (文春文庫)


だけど漱石夢十夜は夢うつつのあわさいが衒いなく
描かれていて安心して身を任せていられる。


幻想的なはなしでありながら、情景が端的に描写されているので
読者はその描写をあしがかりにしておはなしのなかにすっと
はいりこんでいける。そしてそれがまた美しい世界。


『第一夜』のモチーフになっているのは、「死」、「約束」、「化身」、「再会」で泉鏡花ちっく。けど、文章に抑制が効いているので、
鏡花ほど過剰な感じはしない。


鏡花と漱石というと、扱う世界があまりにかけはなれているので、
いまひとつ自分の頭のなかで結びつかないんだが、
でも実は、この二人は同時代人 *1
漱石は鏡花のことを「天才だ」と評していたりする*2


鏡花って、どうしても時代がかってて大げさだから、
江戸っ子の漱石の好みにはむしろ反するんじゃないかと思ってた。
私自身、やっぱ漱石と鏡花が同じ時代に生きていたってのが
なかなか実感できない。作品として発露するものがあまりに違いすぎて。

*1:鏡花 1873-1939、漱石 1867-1916

*2:硝子戸の中