『ベストセラーはこうして生まれる(ベッツィ・レーナー)』読了
- 作者: ベッツィレーナー,土井良子
- 出版社/メーカー: 松柏社
- 発売日: 2005/06
- メディア: 単行本
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文学好きにはおすすめの良書。ベストセラーを書いて一発あててやろうかという人には不向きです。
邦題が『ベストセラーはこうして生まれる』ってなってるのが残念。
邦題からは、くさったハウトゥー本のような印象を受けてしまうが、なかはなかなか。
「人間が小説を書くということ」と正面から向き合った良い本です。
ちなみに原題は"The Forest for the Trees"。直訳すると「木々のための森」。
本のの内容からするとこのタイトルの意図は、作家(志望者)を木々になぞらえ、作家たちに創作〜出版までを全容(=森)をかきだしてみせるというところにありそうだ。だから、あえて邦題をつけなおすとするなら『文学の森にわけいるあなたへ』になるかな。
特に前半は、ナボコフ、ロス、サリンジャーなどに関する逸話も満載で面白い。
たとえば、ナボコフは「アメリカ文学界に突如としてあらわれた金髪美女」と形容されていて、孤高の金髪美女らしいふるまい(自分の才能への絶対の信頼−編集者不要といいきるほど)に、読んでるこちらも胸がすく。
『池澤夏樹 アジアの感情』読了
『池澤夏樹 アジアの感情』(新井敏記) 読了
- 作者: 新井敏記
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2002/09/06
- メディア: 単行本
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内容が刺激的かというと、どうかな・・・
インタビュアーが池澤夏樹の「よき理解者」すぎるんではないだろうか。
受け答えの様子は丁々発止というものではなく、あくまでも、作家に心酔しているインタビュアーが、作家が自分の思考をなぞりなおすお手伝いをしているという感じ。
つまりこのインタビューでは、すでにいままでの作品で明らかになったことの表面をなぞっているだけであって、何かあたらしい問題提起の種が仕込まれているわけではない。という印象をうけた。
そんなインタビューも平和で温和でいいのかもしれないけれど。たぶん池澤夏樹の小説読んでるほうがおもしろい。
すでに分かっていることを何度も語るのは居酒屋トークで充分。分かっていないということを分かろうとすること、分からないことを語ろうとすることのほうにこそ刺激はある。
あと池澤夏樹本人による自作解説っぽいことも書いてあった。特に『花を運ぶ妹』(ISBN:4163187707)について。この小説を読んだことがある人にとっては自作解説読むのもおもしろいかも。私は自作解説読んでも読んでみようとは思わなかったけど。
ひとつうなずきながら読んだのは、「自分を新環境に導入してくれるインテリの存在価値」ということ。要約すると、新しい環境に入っていくときに、知識人は必要だ、知的な質問に対して知的な答えが返ってこない場合は適応するのがむずかしい、生活感だけでは無理がある、だから新環境に同じ物差しをもってくれているインテリがいてくれると非常に助かる、というようなことになる。
私は普段「経験・カン・度胸」がスローガンになっている泥臭い現場にいるので(そしてそれに疲れているので)↑の知的な質問には知的な答えがほしいというのが分かる気がした。
また、池澤夏樹に関しては、今読売で連載やっている「すばらしい新世界2」が気になっている。ということでこの前編となる『すばらしい新世界』(ISBN:4122042704)は入手し、読み始めた。人間の生き方・社会との関わり方を題材にした骨太小説っぽい印象をうけているから。
『カイマナヒラの家―Hawaiian Sketches』読了
『カイマナヒラの家―Hawaiian Sketches』(池澤夏樹, 芝田満之) 読了
- 作者: 池澤夏樹,芝田満之
- 出版社/メーカー: ホーム社
- 発売日: 2001/03/26
- メディア: 単行本
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舞台はハワイ。『カイマナヒラの家』という古い屋敷をアパートにして住む人々の群像劇。濃密な人間関係があるわけではなく、彼らの日々が淡々と書かれているだけ。同じ作者の『真夏の朝の成層圏』をもっともっと薄めた感じ。
読み応えがないな。その点が現代小説風。軽い読み物を求めている人にはいいだろう。
たとえばのはなし、ドストエフスキーを読んだあとはしばらく感覚が麻痺して現実世界に戻ってこれない。
そんな力作って最近目にしないなぁ。読書が有閑階級の教養人のたのしみだった昔とは違い、今ではそんな大作へのニーズもないのか。